今日のテーマは“標榜”についてです。
まず基本的なことを押さえていきましょう。歯科医院が標榜できる診療科目は医療法によって定められています。それは歯科、小児歯科、矯正歯科、歯科口腔外科の4つです。インプラント、審美歯科、予防歯科などは標榜できません。でもこれっておかしいと思いませんか?なぜこれらは標榜できないのでしょうか?
病院を建てるときに標榜する診療科目を選定します。ただこの場合に4つ標榜ができる診療科目がありますが、ほとんどの病院がすべての診療科目を標榜をすると思います。自分が得意か不得意かで決めるというのは難しいので、「載せれるものは載せておこうか、患者さんもその方が集まるし」くらいの感じで載せます。
ここで皆さんに気を付けてもらいたいのが、標榜はそこの病院が得意分野だから載せているという訳ではないということ。矯正歯科が載っていても矯正していないところもあるでしょうし、歯科口腔外科が載っていても親知らずの抜歯をしないところもあります。
よくあるのが小児歯科を掲げているので、子供を連れてきましたというケース。小児歯科と言っても医科の方の小児科とは違い、歯に関しては狭い領域ですから、普通の歯科診療所では小児も大人もどちらもやらないといけません。どちらかしかできない歯医者というのは皆無でしょう。ですから小児歯科を標榜しているから、小児歯科が得意であるということではありません。
また歯科口腔外科と書いてあったから、親知らずの抜歯が得意だと思い、来院したという人もいます。これも歯科口腔外科だからと言って、みんなが大学病院の歯科口腔外科で修業を積んでいるという訳ではありません。あまり歯科口腔外科に触れたことがない人でも標榜している可能性はあります。
こうして考えると標榜って何の意味があるの?って思います。患者さんが分かりやすいようにというように決められてるい事なのでしょうが、それが逆に混乱を招いていると思います。しかもインプラント、審美歯科、予防歯科といった今はむしろ患者さんの間でも認知度が高まっている項目は掲載不可となっています。それはいかに昔のやり方をただ踏襲しているだけかということを裏付けるものでもあります。全く時代に合っていません。
患者さんのためにどのような標榜を選択すべきか、ここも大変難しい選択ではあります。歯医者側としても、不得手だからと言って標榜していない項目を増やしてしまうと、その病院はすごく受け皿が小さくなってしまいます。矯正歯科や歯科口腔外科をあまりやっていない診療所は標榜しないという選択もあるのかもしれませんが、全くやっていないわけではなくちょっとはやってるんだけどね、という所も多いと思います。
ただ最近はホームページが整備されてきました。ホームページに関しても広告に関することなどは様々な規制はありますが、だいたいその病院の特色が分かるようになっています。ただここでも注意点があります。ホームページや広告というのは、基本的に“病院をよく見せる”ように構成されているということ。
企業のイメージ戦略と一緒ですね。特に大手企業などはイメージを非常に大切にします。会社内では働きやすい環境をアピールし、会社外では素晴らしい商品やサービスを提供しているというイメージをうまい具合に消費者に植え付けていきます。CMや広告というのは、本当によく考えられているなと感心します。この辺りが、どこまで行っても本音と建前、実情とイメージを考えたときに後者をうまく発信していくことが、経営上で非常に大切なんだということを痛感させられる所であります。
歯科医院で言うと、いかにすごい先生かをアピールしたもの勝ちなところもあります。特に肩書というのは有効ですね。普通の人というのは肩書というか権威に弱い人ばかりですから。どこどこの大学の客員教授、臨床教授と聞いたらすごい人そうに思えませんか?もちろん中にはすごい人もいることは間違いないですが、そのポジション自体にすごさはありません。退官した教授の天下り先にしょうがなく新しいポジションを作る場合も多いわけですから。
ホームページなんかを見ていると、たくさん勉強会に参加して横文字の小難しい~コースみたいなものを終了しています、いろんな~学会に所属しています、などを見かけると思います。学会なんて年間お金をなんぼか払っているかどうかの問題ですから、それ自体に何の意味もありません。しかしながら友人から「(ホームページを見て)ここの先生は国際~学会に所属しているから、きっとすごい人なんだよね?」と言われたことがあります。“国際”とつけばなんかすごそうに見えるんでしょうね。
今回は標榜から派生して、肩書にまで言及しました。これはよく分からない人が騙されてしまう(可能性が高い)よい例です。読者の皆さんには人は騙されやすい生き物だということを再認識して頂きたいですね。なるほど通りでオレオレ詐欺もなくならないわけです。人は中身より外見で判断してしまうということも同列の話ですね。
ではどうすれば、各病院の得意分野が分かるのか。これはなかなか難しい問題ですが、その先生の肩書より経歴を見たほうが良いと思います。たとえば歯科口腔外科が得意かどうかは大学の歯科口腔外科で学んでいるかどうか、矯正歯科であれば、矯正の専門医であるのかもしくは矯正を学べる環境にあったのかどうか。肩書に関しても海外の~大学に留学している場合などは長期間行っているのかどうか。一週間くらいの短期だけ行って「俺は留学経験あるんだ!」という人もいます。
あとは一見よさそうなものにすぐ飛びつかないようにすることでしょうね。だいたい人間なんて初対面でその人のことなんて何もわかりはしません。歯科医院であれば5回、10回と通うことによってなんとなくその歯科医院の輪郭が浮かび上がってくるのだと思います。何事も早とちりは禁物。ある程度時間をかけて様々な判断をしてもらいたいと思います。
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