今回はつめ物とかぶせ物の違いについてです。みなさんはそれぞれについてどのようなイメージをお持ちでしょうか。つめ物は部分的なもの、かぶせ物は全体を覆うものというイメージで良いかと思います。
ただ患者さんと専門家の間でやり取りされる用語は注意が必要です。患者さん(素人)にわかりやすい言葉というのは、理解しやすいようにイメージを持たせていますから、突き詰めると専門家が抱くイメージとちょっと違うことが多いです。素人が円周率は3だよねと言ったときに、数学の専門家に言わせるとちょっと違うんだけどな…となると思います。
例えば差し歯という言葉も僕たちにとってはあやふやです。差し歯が外れてこられた患者さんが、「ここは歯はもうないんやろ?」って言ってくることがあります。いえいえ歯があるから歯に差す差し歯なわけです。また歯を抜いた後のことを相談するときに「ここは差し歯にできるんかね?」って聞かれることがあります。これも歯がなく差すところはないので差し歯は出来ないということになります。
ということで「つめ物」と「かぶせ物」の違いを考えていきます。
●つめ物はほとんどが神経がある場合のむし歯の治療
歯医者に行ってむし歯ば見つかれば、つめ物をすることになります。ここで前回のメルマガの知識が役立ちます。保険の範囲内だと白いプラスチックか銀歯でした。
つめ物であればその歯の神経は生きている場合が多いです。治療は麻酔をしてすることが多くなります。神経が生きている歯においては9割がつめ物、かぶせ物は1割に満たないくらいだと思います。かぶせ物はおおきく削りますから、相当大きなむし歯になった場合に選択されると思いますが、そんな大きなむし歯があればそれはすでにむし歯が神経に達している場合が多く、まず神経の治療をしているでしょう。
●かぶせ物はほとんどが神経がない
一方でかぶせ物はほとんどが神経を取っています。みなさんのお口の中に銀歯のかぶせ物が入っていたとしたら、まず神経がないと思ってください。神経がない歯というのは以前お伝えしたかもしれませんが、歯が折れやすくなっている状態です。神経を取った日から20年以内に歯がダメになることが多いです。これは歯を予防するうえで一番大切なことですので覚えていてくださいね。
●神経がない歯でもつめ物であることも多い
一方神経がない歯がすべてかぶせ物かというとそうでもありません。神経を取った後つめ物で治す先生も多くいます。ここは先生によって意見が分かれるところです。ここで、神経を取った後につめ物でやるメリット、デメリットまたはかぶせ物でやるメリット、デメリットを考えてみましょう。
まず大前提として神経を取った場合は、かぶせ物で治していくことが基本になります。一番の理由は神経を取った歯は割れやすいので、咬む面に自分の歯が残っていると欠けたり割れたりすることが多いからです。そうなるくらいであればはじめからガッツリ削ってかぶせてしまえという話です。
二番目の理由として神経の治療をやりやすくするためです。歯の頭の部分を削れば削るほど神経の通り道が見やすくなります。背丈が低くなれば、直接奥の方が見やすいし、光も入りやすくなります。神経の治療というのは大変難しい治療ですから、このように便宜的に削るというのはよくあることです。以上が二つが大きな理由です。
一方かぶせ物のデメリットは何でしょうか。これはつめ物のメリットと相関します。かぶせ物は歯の周りを1周しっかり削りますから、削る量は多くなります。かぶせ物のデメリットは削る量が多いことで、それが他人から見て見える部分も削りますから、銀歯とかであれば銀色が丸見えになります。これがつめ物のであれば銀色が丸見えという所がなくなります。ただつめ物を選ぶと前述したデメリットを享受しなければなりません。そこを天秤に考えてどうするかですね。
もう一つかぶせ物のデメリットがあります。それは保険の治療だと2年間かぶせ物を保証しなければならないというルールがあるということです。これが何が問題かというと、そもそも神経の治療をした歯というのは根っこの先に膿が溜るなどの問題が起きやすいので、再治療になりやすいという実態があります。再治療の際は基本的には土台やかぶせを外さなければならず、壊しながら外すわけですから、再治療が終わった後に2年間はかぶせ物が作れないですね、どうしましょうとなる訳です。
これがつめ物だと2年間という縛りがない。だから最初の神経の治療の段階でそのようなことを考えるとつめ物で行けそうなら、つめ物で治そうかという気持ちになる訳です。この補綴物維持管理料と言われる2年間の縛りは、歯科業界ではまあまあ問題になっており、現場からは批判的な意見が出ておりますが、厚生労働省がどうも自信を持っている制度らしく一向に変わりません。
●つめ物とかぶせ物の違いを理解したその先に何があるのか
患者さんにとってつめ物とかぶせ物のちがいを理解することで何か良いことがあるのか。それはないかもしれません(笑)ここまで読ませておいてそれはないだろ!という声が聞こえてきそうですが、「理解することにあまり意味がない」という理解は非常に意味があることです。その事柄については注意を払ったり労力をかけなくてもいい訳ですから、頭の整理になります。
歯の治療の選択をする際に一番大事なところは「患者さんがどこまで理解して選択していくのか」というラインを引くことです。患者さんが全部選択しても駄目でしょうし、歯医者が全部決めてしまっても駄目。患者さんは“素人考えでもこの辺りは理解して自分で選んでいかなければならないな、ここからは煩雑だし専門家の意見に沿っていこう”というライン引きが上手くできるかどうかだと思います。
このライン引きがうまく行き始めると、歯医者との信頼関係もできるし、すべてがうまく行くような気がします。繰り返しますが“どこまで理解してどこまで自分で選択していくのか”のライン引きが重要です。ぜひこれからはその辺りを考えてもらいながら歯医者に通ってみて下さい。
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