「むし歯」についての話です。むし歯は誰もがイメージしやすい歯の病気です。今回は“なぜむし歯が防げないのか”というところに焦点を当てて話を進めていきます。
まず最初にむし歯の成り立ちを整理しましょう。なぜむし歯になるんでしょうか。それは皆さんのイメージ通りでOKです。主な原因は「糖質の摂取」と「歯垢(歯の汚れ)」です。つまり、甘いものをちょくちょく食べて、歯磨きしないことを続ければむし歯になる可能性が大です。まずは簡単な理解として、この二つが主な原因ということを頭に入れてください。今回はこの二つの原因をクローズアップして話を進めていきます。
そしてここで一つ目の重要ポイントがあります。それはどちらがむし歯に対する影響が強いかと言えば「糖質の摂取」だということです。例えば以下のような二人を比べてみましょう。Aくんは甘いものを食べないけど、歯も全く磨きません。Bくんは甘いものはよく食べますが、食べた後には歯を頑張って磨きます。さてAくんとBくんはどちらがむし歯になりやすいと思いますか?答えはBくんです。しかもこれは比べ物にならないくらいBくんの方がなりやすいといえるでしょう。
うちの病院にも予防的に通っている子供たちが多くいますが、このAくんBくん理論はかなり当てはまります。Aくんのような生活をしている子は、半年に1回くらいお口の中のチェックをしていくだけで、何の問題も起きません。一方Bくんのような生活をしている子は1か月に1回歯磨き指導を受けて、歯のクリーニングをしていてもちょこちょことむし歯になっていきます。
甘いものを摂取しないという生活習慣のおかげで、ほとんど努力や労力なくしてむし歯に困らない人生を歩んでいくAくん、一方甘いものを摂取するという生活習慣があるがために、努力や労力を費やしてもむし歯に困る人生を歩んでいくBくん。この生活習慣の違いだけで、歯に関しては全く違う人生を歩むことになります。
「あいつは歯を磨かないのにむし歯にならない、だけれどもおれは歯を磨いているのにむし歯になる」こんな話を耳にしたことはありませんか?これはまさに前述した話ですね。
これは結局甘いもを食べれば食べるほどむし歯菌が住みつき、活動が活発になるからです。虫歯菌は甘いものをエネルギー源にしています。なので逆に全く食べなければまったく活動しないことになります。
ではBくんがむし歯にならないような方法はないのか。基本的には難しいでしょう。理論的にはBくんが歯の汚れを100%落としたらむし歯にはなりません。ただ歯磨きというのは実はかなり難しいので、100%の汚れを落とすなんて夢物語です。それどころか80%の汚れを落とすのもかなり難しいのです。うちの病院では歯磨き指導をする際赤く染め出しをしてやっていますが、指導を複数回受けている人も含めて80%汚れを落とせている人は10人にせいぜい2人くらいです。
実は「歯磨き」という言葉は結構くせ者です。身近な言葉すぎるし、みんながやっているしということで、できていると勘違いしやすいんですよね。ところが「やっている」と「できている」とは全く違います。また汚れが白いというのもよくない。白いから汚れが落ちているかどうかなんて目で確認するのがほとんど不可能です。やったことがない方はぜひ歯磨きした後に赤く染め出すものを使ってみてください。ホントびっくりしますよ。きっとほとんど磨けてないじゃん(笑)ってなりますから。
話を元へ。ここが二つ目の重要ポイントになります。Bくんがむし歯にならないようになるのが難しい理由はもう一つあります。それは甘いものをやめることが難しいということです。甘いものってうまいですよね?みんな大好物です。そりゃそうです。甘いものがうまいと人間の脳みそが認識するようになっているわけですから。甘いものは覚せい剤やタバコと一緒で“中毒性”があるんです。だからなかなかやめられない。
ゆえに虫歯を防いでいく作戦としては小さいころになるべく甘いものに接触させないことが大事です。とくに幼少期ほどむし歯菌が住みつきやすく、むし歯になりやすいので。でもこれがまた難しい。兄弟なんかがいると、一緒に食べちゃうし、保育園や幼稚園でも出してしまう。今の日本に住んでいればどっかで接触するというのは避けられないところです。
でもここでちょっとみなさんに考えてもらいたい。小さいころに甘いものを食べさす理由って何かあるんですかね?糖質は発育にほとんど不要ですし、エネルギー源として脳みそが少し必要な程度で、むしろ害の方が多い訳です。日本人はそれを知ってか知らずか小さいころから何のためらいもなく甘いものを摂取していきます。そしてむし歯になったときにみんな言うんです。もっと早くそれを知りたかったと。
しかしながら現実はそう甘くはありません。子供たちはみんなおやつが大好き。故にみんなで甘いものを楽しむ時間もあってもいいのかなと思っていますが、量を減らすだけでも虫歯予防になると思いますので、正しい知識をもって、是非後悔がないような生活を送ってもらいたいと思います。
今回のポイントは二つありました。一つ目はむし歯の原因の大部分は甘いものであるということ。二つ目は甘いものを一度覚えてしまうとなかなかやめれないということ。この二つの狭間の中で、むし歯予防に努めなければなりません。なかなか難しいですね。でも最後の最後はあまり深く考えないでくださいね。考えすぎることの方がむし歯より体に悪いかもしれません(笑)。自分のできる範囲で身の丈に合った歯の予防を実践していってくださいね。
コメント