政府は語らない、政府に翻弄されきた歯科の歴史

日本の医療の主体は保険治療である。保険制度を作っているのは政府。故に政府が主導権を握り、政府が舵を切った方向に、歯科医師は舵を切らざるを得ない。今回はいかに日本政府が歯科医師を翻弄してきたかを、歴史的事実をもとに検証してみたい。

第二次世界大戦前後の歯科界

戦前は歯科の専門学校が6校あ理、戦後は専門学校から大学となった。

1952年(昭和27年)に大阪大学に歯学部ができて、7校となった。

この頃に歯科医師になられた方は現役で仕事をされている方はもういないであろう。

国民皆保険制度の制定

現在の制度の元になる国民皆保険制度ができたのは1961年(昭和36年)のことだ。戦後復興が進み、医療について見直す良いタイミングだったのかもしれない。

この時の全国の歯科医師数は約31,000人人口10万当たり35人くらいであった。ちなみに現在は歯科医師数は約10,7000人人口10万当たり85人くらい。

むし歯という国民病の流行

1960年の後半から国民病となっていったのがいわゆる「むし歯」だ。食生活の変化から日本はむし歯の洪水状態に見舞われた。当時歯科医院は3時間待ちの3分診療とも言われた。朝6時くらいから整理券を配る医院もあったようだ。

ここで政府がとった行動は歯科医師の増員=歯科大の増設だ。政府は10万人当たりの歯科医師数を50人に目標設定して、1967年から1979年の12年間で14校の歯科大を増設した。

ちなみに1980年(昭和55年)の歯科医師の初任給は50万と言われている。当時の物価は現在より低いのにこの数字、おそらく現在歯科医師として駆け出しの先生方はこの数字にびっくりするだろう。

1984年に全国の歯科医師数は6,8145人、人口10万人あたり52.5人となり、当初の政府の目標は達成された。しかしながら、実は2年前の1982年に歯科医師過剰の懸念のがあるために削減に向けた閣議決定がなされている。政府はこの時点で歯科医師の過剰状態になることに気づいていた

昭和のバブル時代

昭和の後期は歯科界もバブルの波に乗っていた。多くの歯科医師は日銭を掴んで夜の街へ出向くというのが当たり前だった。当時は自費診療内から保険給付の類似医療行為点数を差し引く行為が認められており、CR(プラスチックの詰め物)が一本1万円だったと言われている。諸先輩型の自慢話は嫌というほど聞かされた。

開業をすれば、成功が約束されてた時代。3年くらいで借金を返すことも珍しくなかった。現在では借金の返済は10年くらいを想定して歯科医院を開業するのが一般的である。

平成不況と歯科界の劇的な変化

しかしながら良い時代は続かない。同時期に日本国もバブル崩壊という危機に直面したが、こう見ると歯科界は日本の経済の波に乗っているようにも思える。

20世紀末ごろよりむし歯の数は減少し、歯周病や予防が主流となる。また高齢化に伴い、訪問診療も2000年からスタートした。一般的にイメージされる歯を削るという歯科医師の仕事は激減し、一方で歯科医師数は増え続けた。

また政府より歯科医師数の削減の目標は出されていたが改善はせず、2007年に「コンビニより多い歯科医院、歯科医師の三人に一人はワーキングプア」とマスコミに報じられた。

政府は国家試験の合格率を減らすことで歯科医師数を減らすという暴挙にでた。入口を減らすのであれば分かるが、出口を減らすということは、ワーキングプアにも慣れない歯学部卒業生を大量に生み出すことになる。

歯科医師国家試験の合格率は2000年頃は90%をゆうに超えていたが、現在では60%くらいまでに絞られてきている。当然大学側も進級に厳しくなり、留年や国試浪人になることなく入学からストレートで歯科医師になれるものは二人に一人となっている。

今後の歯科界はどうなるのか

歯科医師は過去と比べれば厳しい状況に置かれているが、今後歯科医師数、特に開業医院数が減少することが予想される。理由は二つある。

一つ目の理由は、歯科医師数が最も多いボリュームゾーンは現在の70〜50歳くらいの世代。70歳くらいになるとリタイアし閉院する開業医が多いため、毎年の閉院数は多くなることが予想される。

もう一つの理由は女性の割合が増えているということ。歯科医師数は増えているが、実は20年と比較していると男性の増加率は10%程度であるが、女性は2倍以上になっている。女性はどうしても結婚出産等もあるため、開業するケースは少ないために、開業医院数は今後減少していく可能性が高い。

まとめ

政府は社会問題を解決することが仕事だが、先見性がない。というより先見性持って行動すると、票につながらないので、どうしてもその場凌ぎの政策を打ち出してしまう。

少子化が解決しないのも同様である。子供を大切にする政策より高齢者を大切にする政策の方が政治家として当選する確率が高いわけで、政治家はそのような政策を打ち出す。

とはいえ歯科界の未来はそんなに暗くない。予防や矯正がますます着目され、需要は拡大していくと思うので卒業したての先生や将来歯科医師を目指す方は、時代の変化を感じながら研鑽に励んでもらいたい。

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